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前立腺癌

はじめに

前立腺癌は世界的に罹患率の高い癌であり男性の癌の約10%を占めるといわれています。一般的には欧米人に多くアジア人には比較的少ない癌と考えられていましたが、生活慣習の欧米化にともない日本でも増加傾向の著しい癌のひとつです。2020年には肺がんに次いで2番目に多い男子のがんとなり、死亡率も2000年の2.8倍になると推定されています(図1)。政財界、芸能界の著名人のなかにも前立腺癌を患っている方もおり、前立腺癌についての様々な情報がマスコミの報道などを通じて皆さんのもとに送られる機会が増えていると思われます。

私たちは以前より前立腺癌の早期発見、個々の患者さんに適した治療法を選択する努力をしてまいりました。PSAを用いた前立腺癌の検診の是非について新聞紙上でも話題になりましたが、最近とみに、外来を通じても前立腺癌についてのお問い合わせが多く、この病気に対する意識が高くなっていることがうかがえます。前立腺癌についてよりよく知っていただくため、前立腺癌の診断・治療について特集を組んでみました。

本邦における前立腺癌年次別死亡数・死亡率の推移
厚生労働省大臣官房統計情報部(編)人口動態統計2001
黒石ほか : がん・統計白書-罹患/死亡/予後-1999

前立腺の位置・働き

前立腺の解剖

前立腺は膀胱の出口に位置し、中心部を尿道が通っています(図2)。前立腺の働きは精液の一部を産生することであり、生殖器のひとつとしてなくてはならない器官です。


「前立腺肥大症」は尿道周囲の内腺が大きくなって尿道をふさいでしまうために起こります(図3A)。一方、前立腺癌は内腺の外側にある外腺から発生することが多く(図3B)、前立腺肥大症が癌に変化するようなことはないと考えられています。

前立腺肥大症・前立腺癌

前立腺癌の症状・診断

( 症状 )

一般的に前立腺癌は、多くがいわゆる外腺(前立腺の外側)から生じるため、早期には臨床症状をともなわないのが普通です。最近は、以下にも述べる様にPSA検査と呼ばれる前立腺癌の血液腫瘍マーカー検査の普及により、前立腺癌そのものが原因の症状を伴わない症例が増えています。前立腺癌と診断される患者さんの代表的な訴え、排尿困難(おしっこが出にくい)、頻尿(おしっこの回数が多い)などはむしろ並存する前立腺肥大症の症状であることが多いのです。

しかし前立腺癌が局所で進行した場合、このような症状が出現することがあります。さらに前立腺癌が進行した場合には、他の癌と同様転移が出現しますが、骨への転移が多いことが特徴です。腰痛などが典型的な症状であり、高齢者の腰痛の原因を詳しく調べた結果、前立腺癌が見つかることもあるのです。

( 診断 )

この10年間で前立腺癌の診断は大きく様変わりしました。

  • PSA(prostate specific antigen、前立腺特異抗原)と呼ばれる前立腺癌の腫瘍マーカー検査の普及によりスクリーニングがしやすくなったこと
  • 経直腸エコー(図4)の診断精度の向上およびエコー下での系統的針生検が普及したこと

が大きな変化です。

最近新聞紙上でPSAを用いた前立腺癌の検診の是非に関する報道がありましたが、PSA検査の導入以来、進行前立腺癌の患者さんの比率はあきらかに低くなっています。したがって、50歳以上の男性の方には積極的にPSA検査をお薦めしております。

前立腺癌はCT等の画像のみでは診断が困難であり、確定診断には病理学的検査が必須です。PSAが高値を示す患者さんには積極的に前立腺生検を薦めています。前立腺癌の診断では直腸指診(肛門から前立腺を触知する検査)が大切な検査ですが、PSAが非常に鋭敏なため触知不能な小さな癌も診断されるチャンスが増えてきています。

経直腸前立腺エコー・前立腺癌のエコー像

京都大学での前立腺生検について

私たちは直腸指診あるいはPSA検査などのいくつかの検査で前立腺癌が疑われる方には、できるだけ早期に前立腺生検を行うことを薦めています。PSAの値が4(ng/ml)以上の場合には癌についての詳しい検査が必要であると考えられていますが、できるだけ無駄な生検を行わなくてすむように、年齢、PSAの上昇の程度、前立腺の大きさなど様々な因子から患者さんを選択して前立腺生検を行うように心がけています。一般的にはPSAが4〜10では約20%、10〜20では40%程度、PSAが20以上では50〜70%の患者さんに前立腺癌が見つかるとされています。

実際の前立腺生検は、エコーによる検査時間も含めて30分程度です。基本的には肛門から挿入した超音波の器械を参考にしながら、細い針で8から12カ所前立腺の組織を採取する方法を行っています。合併症としては、血尿(おしっこに血が混じる)、便に血が混じる等がありますが、ほとんどの場合3、4日で軽快します。最も問題となる合併症は生検によって急性前立腺炎を生じ高熱が出ることです。
そのため前立腺生検を行う場合、検査後に2日程度の入院をお願いしています。糖尿病をお持ちの方、血小板の働きを抑制するようなお薬を持続して服用されておられる方、肛門の手術歴のある方などは、日帰り手術場で麻酔をかけながら会陰部(陰嚢の裏あたり)から組織をとることもあります。

前立腺癌が心配な方、あるいはすでに健康診断などでPSAが少し高いといわれてどうしたらよいか困っているような方がいらっしゃいましたら京大病院泌尿器科外来を受診してみてください。担当医が適切なアドバイスをいたします。

病期分類と癌の悪性度

前立腺癌と診断された患者さんは次に病変の広がりを調べます。これを「病期」といいますが、大まかには病期Aから病期Dに分類されます。

( 病期A ) 前立腺肥大症として治療された中から癌が"偶然に見つかった"場合
( 病期B ) 癌が前立腺内にとどまり、外に"はみだしていない"場合
( 病期C ) 癌が前立腺から少しだけ"はみ出している"が転移がない場合
( 病期D ) リンパ節や骨などに転移がある場合

癌のもうひとつの分類に「悪性度」というものがあります。
一口に"癌"といっても非常におとなしいものから、凶悪で小さくてもどんどん転移をきたすようなものまで多様です。これらを分類するため、高分化癌(おとなしい癌)から低分化癌(どんどん大きくなって転移しやすい癌)まで、高・中・低の3段階で分類します。専門的には「グリソンスコア」と呼ばれる点数をつけて、2から10まで9段階で分類することもあります。

病期別治療

京都大学泌尿器科での前立腺癌の治療

前立腺癌の治療は多様です。基本的には病期によって治療法がきまりますが、患者さんの年齢、健康の程度等、様々な事柄を考慮し、最終的には希望にあった治療法を選んでいきます。基本的な治療方針は以下のようなものです

治癒が期待される患者さんに対して

手術療法である前立腺全摘除術または根治的放射線療法を行います。
病期A、B、Cは治癒が期待されますが、

  • 病期Bで75歳以下の方には「手術療法」
  • 病期Cの方、あるいは病期Bでも75歳を超える方に対しては「放射線療法」

を積極的に薦めています。

特に手術療法については、当科で1999年12月に初めて体腔鏡下に前立腺全摘除術を行って以来、2003年2月には(内視鏡下)前立腺全摘除術が高度先進医療として認可され施行してまいりました。この術式も2006年4月には保険適応となり、本術式を希望される患者さんも増えています。詳細は体腔鏡下前立腺全摘除術もご覧ください。

特殊な例として、病期Aや直腸指診で触れないほど小さな前立腺癌では、積極的な意味で治療を先送りする「待機療法」を選択することもあります。手術療法にしても放射線療法にしてもある確率で様々な合併症が発生する可能性があります。たとえ"癌"と診断されたとしても、あと1年でも2年でも治療を先送りして今までどおりの生活を送りたいという方にとっては願ってもない"治療"かもしれません。ただし、この治療は将来の"無治療"を約束するものではなく、 PSA等での厳格な経過観察を必要とします。
非常に高齢な方、あるいは重篤な他の病気にかかられている方に対しては、必ずしも治癒的な治療を選択せずに内分泌療法を選択することもあります。

当科では放射線治療科と協力して前立腺癌専門外来をがん診療部に開設しております。放射線診断部、病理診断部の先生方とも協力して、前立腺癌の患者さまに最適な治療方針を考え、提示させていただいております。とくに最近は放射線治療の進歩は目覚ましいものがあり、当院ではコンピューター技術を駆使して、前立腺部に限局して高い放射線量を照射する強度変調放射線治療(IMRT)も行っており、良好な治療成績がでております。お気軽に担当医にご相談ください。

放射線科治療部門のホームページ

前立腺癌が再発したら

手術療法など治癒的な治療を行っても約30%の患者さんでPSAの値が再度上昇し、前立腺癌が再発します。個々の患者さんの状態にもよりますが、手術後の再発に対しては積極的に前立腺摘出部位の放射線療法を薦めています。手術療法後、放射線療法後の再発では、癌が大きくなって患者さんの生命を脅かすようになるまで、10年近くもかかる症例があることが知られています。このようなゆっくりとした再発に対しては、緩やかな内分泌療法を行ったり、あるいは、ある程度癌が大きくなるまで経過を観察し、症状などがあらわれた時点で内分泌療法を開始することもあります。

転移のある患者さんに対して

残念ながら転移を有する前立腺癌に対して完治を望むことは困難です。このような場合には、内分泌療法を選択します。前立腺癌は男性ホルモンを栄養として増殖するため、この男性ホルモンの影響を可能な限り0に近づけるのが内分泌療法です。具体的には、体内のほとんどの男性ホルモンを産生している精巣(睾丸)を手術的に除去する方法、あるいは注射によって男性ホルモンを押さえ込む方法などがあります。これらに抗アンドロゲン剤と呼ばれる内服薬を併用することもあります。

内分泌療法により90%以上の前立腺癌は転移巣も含めて小さくなります。一般的に内分泌療法はいずれ効果が薄くなりますが、10年近くも内分泌療法が有効な方もおり、このような患者さんにとっては"癌を押さえ込む"内分泌療法が、手術や放射線などの根治的な治療と同等の価値をもつこともあるわけです。

最近では長期に内分泌療法を施行することで骨粗鬆症などの合併症の報告もあり、骨病変に対しては疼痛や骨折等の骨関連事象を減らすなどの管理が患者さんの生活の質の観点からも重要です。そこでわれわれは骨代謝を改善するビスフォスフォネート製剤を骨転移のある患者さんに早い段階から積極的に使用しております。詳細は前立腺癌担当医にご相談ください。

内分泌療法が効かなくなったら

上で述べたような内分泌療法が無効になった前立腺癌に対しては、治療が非常に困難となってきます。2004年にドセタキセルというタキサン系抗癌剤が、このような内分泌療法が無効になった症例に対して生存期間の延長に寄与しえることが証明され、標準的治療として認知されるようになりました。我が国でも2008年8月に内分泌療法抵抗性前立腺癌への適応が厚生労働省により承認されました。また、2014年には、イクスタンジ(製剤名:エンザルタミド、強力な抗男性ホルモン剤)、ザイティガ(製剤名:アビラテロン、男性ホルモンの代謝抑制剤)、ジェブタナ(製剤名:カバジタキセル、タキサン系抗癌剤)といった新規薬剤が使用可能となり、いずれの薬剤も生存期間を延長すると報告されています。

我々の施設では、内分泌療法が無効になった前立腺癌の方に積極的にドセタキセルを用いた治療を行っており、また、新規薬剤も数多くの患者に投与しております。ところが、それらの薬剤をどの様な患者に、どの様なタイミングで投与するのが最も適切なのかどうかということについては、現時点では結論が出ていません。私たちは、種々の抗癌剤やホルモン剤の特徴を生かして、癌の進行をできる限り押さえこむために、2015年に以下に示す様な去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)治療プロトコールを作成致しました。本治療により、転移のある前立腺癌患者の予後がさらに延長することを期待しております。

「京大CRPC治療プロトコール案」 ( 371KB )

前立腺全摘時のぼっき神経切除に対する神経移植治療について

( 神経移植治療を開始しました )

前立腺癌の手術では、癌を残さずきれいに切除するために、患者さんによっては、前立腺のすぐそばを通るぼっき神経を切除せざるを得ませんが、それにより、手術後にぼっきしにくくなるとかぼっきできなくなるという悩みを持つ方が多く見られています。当科では、そのような患者さんのぼっき機能の回復を手助けするために、切除したぼっき神経のかわりに新たに神経を移植するという手術を、京都大学医学部倫理委員会での承認を受けて、正式に行うことになりました。

( 前立腺切除時のぼっき神経切除について )

前立腺の外側には、図に示すように、陰茎をぼっきさせるための陰茎海綿体神経(ぼっき神経)が左右両側に通っています。前立腺癌は前立腺の外側にできることが多く、前立腺を切除する時には、このぼっき神経を一緒に切除せざるを得ません。そのために、手術を受けた多くの方が、手術後にぼっきしにくくなったり、ぼっきできなくなったりしています。ただし、癌の広がり具合によっては、この神経の一部を残すような手術を行うことが可能ですが、その場合でも、ぼっき機能を回復させるのはなかなか難しいのが現状です。

( ぼっき神経切除に対する自家ひふく神経移植術 )

そこで、手術でぼっき神経を切除した後のぼっき機能の回復を手助けするために、自分の足から取ってきた神経を、ぼっき神経のなくなった部分につなぐという神経移植治療が、近年、行われるようになってきました。
ひふく(腓腹)神経は、ひざ下の外側から足のくるぶしの後ろを通る神経であり、足の外側の感覚には関わっていますが、足の動きにはほとんど関わってはいませんので一部切除しても日常生活には特に支障を来しません。そこで、前立腺の手術時に、自分の足からひふく神経を取ってきて、ぼっき神経のなくなった部分につないで神経移植を行います。これが自家ひふく神経移植術です。

一旦切れたぼっき神経は、移植した神経の中を通って陰茎海綿体まで伸びて、再び連続するようになりますが、これには1年半以上かかります。したがって、手術後にぼっき機能の回復が始まるまでには、少なくとも1年半はかかることになります。これまでの結果、片方のぼっき神経を切除した方に比べ、切除した側に神経移植を施した方の方が、ぼっき能の回復率が高いという結果がでております。ただし、勃起能の回復には、個人差があるので、なかなかぼっき機能が回復してこない方やぼっきが全然戻らない方もいます。最近は勃起能を手助けする内服薬もあり、神経移植術を行うことで、ぼっき機能が必ず戻るようになるわけではありませんが、ぼっき機能の回復する可能性が残るというわけです。

( 神経移植術についてお気軽にご相談ください )

これまで、前立腺癌の手術では、癌をできる限り完全に切除して、局所再発や転移への不安を取り除くことが一番であると考えて、それによって失われるぼっき機能の問題をあまり重要視してはいませんでした。しかし、近年、PSA検査を用いた前立腺癌検診が普及するようになり、前立腺癌がより若い年代でより早期に発見される機会が多くなり、癌をしっかり治すだけでなくぼっき機能も残したいと考える患者さんが増えてきました。

当科では、そのような患者さんのニーズに答えるべく、京都大学医学部倫理委員会での承認を受けて神経移植術を行っております。このホームページをご覧になって、神経移植についてお考えになられましたなら、お気軽にご相談していただければ幸いです。

ダヴィンチSサージカルシステムを使ったロボット支援下前立腺全摘除手術

海外では10年前から導入されているロボットによる前立腺全摘除術は、長年日本で行うことができませんでした。

京都大学では2011年4月からこの手術を開始しました。
2011年は保険が通っていなかったために自費をお支払いいただく必要がありましたが、2012年4月に保険収載されることとなり、通常の手術と同じようにさせていただくことができるようになりました。2015年6月までに260例の患者さんに施行させていただきましたが、すべて安全に行うことができております(「京大病院におけるロボット支援前立腺全摘術の短期治療成績」参照)。

また、ロボット支援での前立腺全摘除の時には、人工神経(ナーブリッジ)によるぼっき神経再建手術を開始しました。本手術手技も保険診療でカバーされております。

現在、手術の予約が立て込んでおりますので、ご希望される方は早目に担当医にご相談下さい。

「京都大学におけるロボット支援手術について」 ( 1.85MB )
「京大病院におけるロボット支援前立腺全摘術の短期治療成績」 ( 290KB )

ロボット支援下膀胱全摘除術とロボット支援下腎盂形成術

当院では、保険診療でカバーされていないため自費診療という形ではありますが、膀胱癌に対するロボット支援下膀胱全摘除術や腎盂尿管移行部狭窄症に対するロボット支援下腎盂形成術も行っています。膀胱全摘除術は5例に、腎盂形成術は2例に行い、いずれも安全に施行できております。これらの手術は5例目までは病院負担で施行いたしますが、6例目以降は自己負担となりますので、ご了承ください。

ロボット支援下手術のまとめ

術式 対象疾患 費用 2016年4月時点症例数
ロボット支援下前立腺全摘除術 前立腺癌 保険診療 308例
ロボット支援下腎部分切除術 腎臓癌 保険診療 31例
ロボット支援下膀胱全摘除術 膀胱癌 255万円 5例
ロボット支援下腎盂形成術 腎盂尿管移行部狭窄症 病院負担(5例目まで) 2例

 

前立腺癌についてのご相談については、京大病院がん診療部門前立腺癌専門外来を受診してみてください。各担当医が適切な検査・治療をさせていただきます。

関連情報リンク

小川修監修の武田薬品ホームページ

がん情報サイト

米国癌センターの前立腺癌についての解説もこちらからご覧になれます。