ラクビーワールドカップと私

2023/9/8より、フランスでラグビーワールドカップ2023が開幕した。休みを利用して現地観戦と洒落込みたいところだが、昨今の円安なども影響し、残念ながら時差ボケで眠い目をこすりつつ日本で観戦する毎日となりそうである。早速NZの敗北を目の当たりにするなど、今大会も波乱が予想される。

そもそも、ラグビーは他のスポーツと比べて大番狂わせが少ないスポーツとされる。ラグビーは主にフィジカル×スピードで構成される(と私は思っている)が、どちらもあまり偶然の入る余地がない要素であり、実力が反映されやすいためである。この番狂わせ、英語では”upset”もしくは”giant-killing”といった表現が用いられ、史上最大の”upset”として挙げられる試合の一つが2015年9月19日、ブライトンの夜のことである。そう、ご存知の方も多いだろうが、第8回ラグビーワールドカップ、プールB、日本対南アフリカである。 

ラグビーをご存知ない方のために補足すると、南アフリカは世界ランキング上位の優勝候補に毎回挙げられる強豪国、一方日本はワールドカップ1995でかつてNZ相手に145対17で惨敗するなど、予選でなんとか勝てれば御の字の国で、過去のW杯での戦績は1勝2分21敗と、今回も善戦すれば十分ぐらいの下馬評であった。私も当然そのつもりでTV観戦していたことを思い出す。私が愛するヤコ・ファン・デル・ヴェストハイゼン(NECグリーンロケッツ所属)の母国でもある南アフリカ、通称スプリングボクスのプレーはいつもフィジカルアタックが激しく、一方でスピードを生かしたラグビーは見るものを虜にする。

しかし、この夜は違った。思ったより差がつかない。日本が諦めない、大きな点差がつかない。いつもこういった展開でも結局突き放されてしまうのが地力の差だが、この日は違った。興味のある読者諸氏はYoutubeにある動画をぜひ見てほしい。特に78分すぎ、32対29で負けている状態の日本がすごかった。ラストワンプレーで、同点狙いのPGではなく、スクラムを選択し勝ちにいったのである。見ているものとしては鳥肌がたったのと、なんで同点を狙わないのかと憤慨したものである。しかし選手は違った。まったく諦めていなかったのである。スクラムからマイケル・リーチの突破、その後の丁寧なボール回し、マフィのアタック、最後のヘスケスのトライにつながり逆転。なにか一つが狂っていたらこれらは成り立たなかった。まさに日本ラグビーの歴史が変わった夜で、世界で” The Brighton Miracle”として報じられ、後に映画化された。

その後の活躍は御存知の通り。ワールドカップ2019ではスコットランド・アイルランドを撃破。準々決勝では南アフリカが立ちはだかったが、これはかつてのような惨敗ではなく、精一杯戦った上での敗北であった。そしてあれから4年。今回はどのような戦いをみせてくれるのであろうか。

紳士のスポーツであるラグビーは試合終了のことをノーサイドと呼び、試合が終われば敵味方の区別なく、お互いを讃えるという崇高なスポーツである。読者諸氏もよければラグビーに興味を持ってもらえるとこれ以上ない喜びである。

2019年10月 ラグビーワールドカップ2019 準決勝 ニュージーランドvs イングランドにて(右端が著者)

文責:砂田拓郎