FIFAワールドカップ ブラジル大会をふりかえって

2014FIFAワールドカップ ブラジル大会が幕を閉じて3週間が経とうとしています。

1ヶ月におよぶ熱戦の連続が終わってもしばらくは興奮冷めやらぬ日々が続くのかと思いきや、大会終了直後から新シーズンに向けての移籍や新監督人事、プレシーズンマッチの話題で喧しい今日この頃です。つい先日もスター選手の来日に世間は沸いていましたが、日本の寝具メーカーが脊椎に重傷を負ったサッカー選手との間に交わした契約って、あの怪我の受傷後に急遽もち上がった話なのかと思いきや大会前から決まっていたものだったようですね(当たり前か)。

というわけで、今さら感が満載ではありますが、総括と反省なしに次のステップには進むべからずという声もあるので、ごく私的に大会を振り返ってみることにします。

まずは我らが日本代表について。グループリーグで1勝も上げることができず敗退してしまったわけですが、グループCを振り返るとやはりコロンビアの実力は本大会の時点で、頭一つも二つも抜きん出ていて、他の3チームのどこと対戦しても2−3点とって勝つくらいの実力差があったと思われます。他の3チームはドングリの背比べのような状態で、どのチームが2位になってもおかしくなかったのではないでしょうか。要するにいわゆる「時の運」で決したのではないかと思います。世界における日本の実力はまだまだそれくらいのレベルで、今後もそんなに劇的に変わることはないと思います。

しかし裏を返せば、日本の実力は「運が良ければワールドカップの決勝トーナメントに進むことができる」ところまで上がってきているという風に捉えることもでき、予選リーグで敗退したり決勝トーナメントに進出したりという事に関しては近年のイタリアやイングランド、フランスなどとそんなに変わりありません。そもそも毎回確実に決勝トーナメントに進出する国なんてドイツとブラジルくらいなのです。

もちろんこれまでの成績を上回るという意味で決勝トーナメント1回戦に勝利してベスト8進出というのを目標にする事は悪い事ではないし、実際に戦っている選手はどんな試合であっても最初から負けるつもりはないでしょうから、目標はと問われれば「優勝」となるのは当然の事でしょう。

ただ、客観的に見たら日本の実力なんてその程度、というところを冷静に分析して、それくらいの実力のチームがワールドカップ本大会でよい結果を出すために何をすべきかを考える必要があった(特に監督以下チームスタッフに)と思います。今大会にそういう入り方をすれば、結果も多少違っていたのかもしれないという気はします。

守備的な戦いをしてまで勝ちにこだわるよりは、自分たちの理想とするサッカーを貫いて負けた方が日本の将来にとっては有益であるという意見も聞かれますが、日本の理想とするサッカーが何かという事に対する答えなんてどこにもないし、世界のサッカーのトレンドも4年前の南アフリカ大会と今大会とでは大きく変わっています。若年層の代表ならともかく、フル代表の公式戦では目前の試合に勝つための最善の策とは何かを追求して結果にこだわるべきというのが私の考えです。

一つそれを難しくしている可能性があるとすれば、日本のアジアにおける立ち位置と世界におけるそれとの違いが挙げられるかもしれません。アジアでは強国と目され多くの対戦相手が守備的な戦術を敷いてくる中でいかに確実に勝利するかが求められていたチームが、ワールドカップ本大会では格上のチームとの対戦で負けないためにはどうしたらよいかに切り替えるのは簡単ではないのかもしれません。

しかし次回のワールドカップ予選ではそうも言っていられなくなる可能性すらあります。アジア各国の実力も均衡してきているうえに、今大会のアジア代表チームの成績(計9敗3引き分けで4チームすべてがグループリーグ最下位)から、アジアからの出場枠が減らされる可能性は十分にあるでしょう。そうなるとあのドーハの悲劇で出場を逃した1994年アメリカ大会以来の本大会不出場となる危険性も出てきます。新体制が固まって今後どのように強化を進めていくのかをこれまで以上に危機感を持って見守っていきたいと思います。

さて、前回大会は留学先のアメリカでワールドカップを楽しみました。私のいたCancer Centerにはヨーロッパ出身の研究者が多く、彼らが自分の国を応援している中で、私も自分の国を応援する事ができる(これは当たり前のようでいて、15年前には夢でしかなかったことです!)幸せを噛み締めていました。その上フランスやイタリアといった強豪国がグループリーグ敗退する中、決勝トーナメントに進出し多くの人から祝福してもらった事を覚えています。

4年が過ぎて、私も含めた当時のメンバーの大半は祖国に帰って今大会を観戦しました。今回は当時のメンバーでWhatsApp(LINEと同様のインスタントメッセンジャーアプリケーション)のグループを立ち上げて、試合を観戦しながらリアルタイムに、あるいは試合後に各々の論評を投稿してチャットをしていました。残念ながら日本時間ではリアルタイム観戦に参加できる機会はかなり限られてしまいましたが、4年前に研究所近隣のバーや研究所内の会議室で観戦した時と同様の熱狂がお互い離ればなれになった今年も再現されるようで楽しかったです。

私が最も仲が良かった2人のポスドクはそれぞれイングランドとスペイン出身で、私も含めた3ヶ国はそろって早々に敗退してしまったので大会後半は気楽な傍観者だったのですが、他の国出身のメンバー、特にドイツ人とイタリア人はたいへん熱狂していました。イタリアはイングランド・スペイン・日本と同様グループリーグ敗退の憂き目にあった訳ですが、彼らは大会後半も「アンチ・ドイツ」としてドイツが勝ち進めば進む程、盛り上がっていたように思います。

サッカーの世界におけるドイツ(西ドイツを含む)とイタリアのライバル関係はよく知られています。どちらも優勝回数4回で、なんといってもドイツにとっては1990年イタリア大会での優勝、そしてイタリアにとっては2006年ドイツ大会での優勝があります(両国とも2回ずつワールドカップを開催しており、それぞれ1934年イタリア大会と1974年の西ドイツ大会では自国開催優勝を飾っているのも一緒)。

そんな両国ですが、実はドイツは西ドイツ時代も含めてワールドカップとユーロでイタリアに勝利した事がありません。ドイツ(西ドイツ)は戦後17回開催されたワールドカップのうち終戦直後の1950年ブラジル大会を除くすべての大会に出場(つまり今回で16大会連続出場。うち優勝4回・準優勝4回)しており、そのうち4大会でイタリアと対戦して敗退しています(1970年メキシコ大会準決勝、1978年アルゼンチン大会2次リーグ、1982年スペイン大会決勝、2006年ドイツ大会準決勝)。ドイツ人にとっては「イタリアにさえあたらなければ」という思いが強かったようで、今大会でのイタリアのグループリーグ敗退は実は何よりの吉兆だったのかもしれません。

イタリア人もドイツの優勝を指をくわえて見ているわけもなく、大会後に「ようこそ4スターズクラブへ(先輩面)。イタリア人以外の人々はイタリアが正々堂々と優勝したのは2回だけだなんて言っているけど、それでもドイツの1回より多いわ。だって他の3回は別の国、つまり西ドイツによるものだもの!」と強がってみたりしています。今後も両国の対戦はそれが実現するかしないかも含めて大会の大きなポイントであり続けるでしょう。

それにしてもイタリア人以外の人々が優勝と認めていないワールドカップ2回のうち、1回はムッソリーニ率いるファシスト党統治下で開催された1934年大会の自国開催優勝のことを指しているのは想像に難くないのですが、もう1回はどの大会のことを言っているのでしょう?カルチョスキャンダルとジダンの頭突き事件で後味の悪さが際立った2006年大会でしょうか?

日本はまだまだワールドカップで歴史に残るような名勝負や、後生に語り継がれるようなライバル関係を築くに至っていませんが、これからも本大会に出場を重ねて歴史を積み上げていってほしいものです。

サッカーの話題となると、ついつい力が入って気がつけばこんな長文になってしまいました。最後までおつきあいいただいた方、ありがとうございました。

もう8月の中旬から下旬にかけて新シーズンが開幕です。ワールドカップ後に大型移籍もいくつかあって、いまから次の4年間がどのようなものになるか楽しみですね。

2014年8月
小林 恭