Movember– 口髭を生やして男性の健康向上に貢献しませんか?!

私事ですが、11月に入り口髭を生やし始めました。急な変化のためか職場では若干好奇の目で見られ、患者さんにもお世辞で「ダンディーになりましたね」などと言われますが、自分では全く似合うとは思っていません。では何故、突如ヒゲなんか生やし始めたのか。それは11月—Novemberだからです。日本ではご存知の方はほとんどいないと思いますが、欧米やオーストラリアなどでは11月はMo(口髭)+ vember = Movember ということで口髭を生やす月なのです。ではなんでそんなことをするのか。実はMovember FoundationというNGO(NPOのようなもの)があり彼らがこのムーブメントの旗振り役となっています。このNGOの目的は11月を「男性の健康向上月間」として様々なチャリティーイベントを開催し、前立腺癌や精巣癌の撲滅および自殺等のメンタルヘルスの問題に取り組むための募金を呼びかけることで、その活動のシンボルとなるのが11月の1ヶ月間、みんなで口髭を蓄えることなのです。2000年代前半の設立当初は色々と問題もあったようですが、今では世界のNGO トップ100にも仲間入りし、前立腺癌や精巣癌の研究では政府系以外で世界最大の研究資金提供源となっています。Movember Foundationのホームページ(https://ex.movember.com/)によると2016年だけで21カ国から60億円以上の寄付金が集まったそうです。集まった資金は競争的資金として公募された中から専門委員会による厳正な科学的審査で選ばれた研究プログラムに配分されます。私が留学していたカナダのバンクーバー前立腺センターでは毎年、1億円を超える研究費が同団体からの資金でした。当然、11月になると研究室のスタッフはみんな髭を生やして活動を盛り上げますし、地元のスーパーや飲食店も巻き込んで色々なイベントが開催されます。口髭を生やしていたらビール最初の1杯は無料サービスなどというイベントもありました。

翻って日本ですが、最近は大規模なゲノム解析等、研究に必要なお金は増える一方なのに科研費は増えず、製薬企業との共同研究等で何とか研究資金を繋いでいる状況です。しかし企業との共同研究では何かと研究内容の制約が多く、なかなか自由に研究ができません。現在、私は泌尿器科研究室の研究室長を担当させて頂いていますが、いくら我々の優秀な大学院生が必死で研究を行っても資金力の違いによるスピード感の差は歴然としており、どうしても我々はニッチな領域を狙うしかない状況です(研究は二番では駄目なのです!)。まさに欧米と比較すると竹槍で騎馬隊と戦っているようなものです。

欧米では研究費を集めるためのマラソンや自転車競技などのチャリティーイベントが日常的に行われていて医学研究費の大きな部分を占めますが、日本では個人や医学に関係のない企業からの寄付などの民間資金はまだほとんど医学研究分野には入ってきていないように思います。残念ながらMovemberもまだ現時点では日本で受け皿が整備されておらず、活動は行われていません。ただしイベント好きな日本人のことです、お祭り的な要素があって経済的波及効果が期待できれば一気に活動の輪を広げることができるのではないかと期待しています。ハロウィンだって数年前まではこんなに日本では盛り上がってなかったですよね?日本では若者が口髭を蓄えるのに文句をつけたり、大事な会議の場で髭を剃っていないと社会人として問題があるなどという人もいますが、医学に貢献するためという大義があれば1ヶ月間くらい堂々と生やせますよね?むしろMovemberを知らない上司のほうが恥ずかしいという状況になれば大成功です。付け髭でも何でもいいんです。

私自身は日々、どうしても多忙でなかなか時間を割けませんが何とか、今後日本でもMovemberの輪を広げて少しでも男性の健康に関する研究が進みやすくなることに貢献できればと思っています。自分だけではなかなか時間を十分に割けないので何とか医学生や定年退職後の患者さんなどに呼びかけて少しずつ進めていければと思っています。今年は私だけの一人Movemberですが、ぼちぼちと進めていこうと思います。もしこの活動に興味があって積極的に関わりたいという方がいらっしゃれば是非ご連絡ください。でもまずは口髭を生やして少しでも多くの人にMovemberについて知ってもらうことから始めましょう。Let’s Movember!

文責 赤松秀輔