ニューヨークで出会った剣友

ニューヨーク(といってもブロンクス)での留学から帰ってきてから、気がつくともう5ヶ月が経とうとしている。多忙のあまり?今となっては、本当に夢だったのではと思うこともあるが、感銘を受けたことも多々あり、今回はいい機会なのでそのうちの一つを紹介したい。

住んでいたのはWestchesterというところで、マンハッタンに通う駐在の日本人が多く、治安も良いベッドタウンである。私が渡米したと同時期に、USAで剣道八段を二人目に取得したK先生が近所に新しく6つ目の道場を開いた。その強さ、人格にも魅かれすぐに入門した。火曜日と土曜日が稽古日であったが、火曜日は5時からということもあって、その日は研究も3時半ごろには早々に切り上げ、子供達と一緒に汗を流した。

そこで知り合った一人の剣士がいる。年は私より少し歳上になるが、日本人とアメリカ人とのハーフで高校進学とともに単身で渡米し、仕事でも日本、ドイツ、アメリカを飛び回って活躍している。

剣道(とビール)を心から愛しており、いつも共に稽古に励み充実した時間を過ごした。稽古の後も近所の行き着けのパブで剣道談義によく花が咲いた。

私の帰国があと数ヶ月というときに、彼のヘルニアが悪化し、動けなくなり緊急手術となった。手術後も両足の麻痺は残存し、歩くのもやっとの状態であったが、医者も驚くほどの熱心なリハビリと回復力で、早々に道場に顔を出してくれた。

そのような状況でも悲観するのではなく、「次に稽古をするときは、絶対に皆に弱くなったと言わせない。」と、リハビリと共に、見取り稽古(先生の稽古を見学して学ぶこと)に励んでおられた。

その目はまさしく真剣であり、迷いがなかった。

私のもう帰国まで間がない頃、まだ十分回復していない状況であったが、防具を着け、稽古に来てくれた。私が帰国するので無理していただいたようだが、大丈夫なのだろうかと心配した。しかし、構えたときから、以前とは違う風格を感じた。私は、先に面に飛んだ。その一瞬、まるでK先生のような切り落とし面を繰り出された。確かに、以前より強くなっている。心配して稽古に望むことは、逆に失礼だと感じた。今までのように真剣勝負をするべきだ。

どのような状況になっても、そこでできることを精一杯行うことで、前に進み続ける大切さを改めて気づかせてくれた。
「剣道とは剣の理法の修練による人間形成の道である。」それは、医療にも通じるところが多い。

そして、偉大な先輩、優秀な後輩とともに、今日も黙々修行。

 文責:助教 根来宏光