一般の皆さまへ あつかう主な病気

尿路上皮がん
(膀胱がん、尿管がん、腎盂がん)

はじめに

はじめに

尿の排泄経路の仕組み

腎臓で作った尿は尿管という細い管をとおり膀胱にたまります。膀胱は300~400ml程度の尿をためることができます。図1に示したように、腎臓はへそより高い位置にありますが、膀胱は骨盤の中におさまっており、恥骨の背中側にあります。膀胱には、尿をためる働きと、尿を出したいときに適切に収縮するという働きがあります。

膀胱や尿管、腎盂(じんう:腎臓で尿を集めるところ)の内腔(うちがわ)は尿路上皮という粘膜で覆われています。この尿路上皮とよばれる細胞から発生した癌が尿路上皮がんと呼ばれ、できる場所によって膀胱がん、尿管がん、腎盂がんという名前がつきます。ここではまず膀胱がんのことを中心に解説します。

腎臓と膀胱の位置
Q. 膀胱癌はどんな人がかかりやすいですか?
50歳以上の方に好発します。男性が女性の2-3倍の頻度です。喫煙者は非喫煙者に比べて4倍程度発生率が高いようです。化学物質と膀胱癌との関係は深く、化学物質を扱う職業の人に好発することが有ります。膀胱結石や慢性膀胱炎の人もかかりやすいとされています。

膀胱がんの2つのタイプ

膀胱がんには筋層(尿を出すための平滑筋の層)まで病変が及んでいるかどうかによって2つのタイプに分けられます(図2)。

膀胱がん
  1. 1. 筋層非浸潤性膀胱がん

    膀胱の内面に突出しますが、根が浅めで表面は乳頭状で狭い茎を持っています(図3)。
    内視鏡的に治療できますが、内視鏡治療だけでは再発しやすいという特徴もあります。

    【内視鏡】筋層非浸潤性膀胱がん
  2. 2. 筋層浸潤性膀胱がん

    悪性度の高い癌で、根が広く膀胱の壁の深いところまで浸潤する傾向があり、転移することもあります(図4)。転移がなくても内視鏡治療だけで治療することは困難なことも多く、膀胱摘出術などをして治癒を目指します。転移があるケースでは抗がん剤や新規免疫療法による薬物療法が主体となります。

    【内視鏡】筋層浸潤性膀胱がん

検査と診断

検査と診断

Q. どのような人が膀胱癌の検査が必要ですか?
膀胱癌の症状で一番多いものは血尿です。目でみて分かる血尿が出た場合は、たとえ一回だけでも必ず泌尿器科専門医に相談してください。尿の回数が多い、排尿時の痛み、排尿後もスッキリしない、などの膀胱炎のような症状の場合もあります。このような症状でお悩みの方は担当医にご相談ください。
Q. どんな検査が必要ですか?
①尿検査 尿中にどのような細胞が出ているか、悪性(癌)細胞が出ていないかを調べます。患者さんには痛みを伴わない、基本的ですが大切な検査です。
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②内視鏡検査(膀胱鏡) 膀胱の中を内視鏡で観察します。膀胱癌の診断には最も大切な検査です。当科では柔らかく細い内視鏡(軟性膀胱鏡)を使用しておりますので、痛みは比較的少なくなっております。
また当院では、膀胱癌早期発見のためNarrow Band Imaging (NBI)システムを用いた新しい膀胱鏡を導入しています。これは、通常光と波長の異なる光を用いることで、腫瘍化しつつある異常粘膜にみられる血管構築の異常を捉えようとする新規の光学システムです。このシステムの導入により、上皮内癌など通常の膀胱鏡検査で診断が困難であったケースでも、より確実に病変部位の同定が行えるようになりつつあります。
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③画像検査 ①②の検査で膀胱がんが発見された場合、さらにCT(シーティ)、MRI(エムアールアイ)、胸部レントゲン、骨シンチグラフィー、などの検査を行う場合があります。これらは、膀胱がんがどの程度進行しているか等、治療方針の決定のために行います。

「治療」及び「予後と療養」

「治療」及び「予後と療養」

膀胱がんの治療に際して

膀胱がんの治療は、腫瘍の悪性度と進行度はもちろんのこと、患者さんの体力、希望、身体的状況、社会的状況等を総合的に考えながら、担当医と患者さんが十分納得して進めていくことが大切です。当院では膀胱がんについて十分な知識と経験のある医師や看護師(ストマ管理専門)を中心として、患者さんの診療にあたります。どんな小さな疑問や不安でも当科のスタッフにご相談ください。

筋層非浸潤性膀胱がんの治療

  1. 1)概略

    筋層非浸潤性膀胱癌に対してはまず初めに麻酔管理下に尿道から細い内視鏡を入れて可能な限り腫瘍を切除します。手術翌日には食事、歩行、身の回りのことができます。早い方は術後2日目に退院が可能です。しかし、内視鏡的治療を受けたあとに半数以上の患者さんに膀胱内の腫瘍再発を認めます。そのため多くのケースで内視鏡手術後に膀胱内にBCG(ビーシージー)等を注入することで再発予防を行います。再発腫瘍を早期に発見するために、内視鏡手術後2年間は3-6ヶ月毎の膀胱鏡を行う必要があります。

  2. 2)膀胱内注入療法の実際

    尿道口(尿の出口)から細くて柔らかいカテーテルを膀胱内まで進め、カテーテルから薬液を膀胱内に注入します。30分から1時間程度、排尿を我慢していただき、その後排尿してもらいます。膀胱内注入療法の多くは外来通院で実施できる、安全性の高い治療法ですが、膀胱刺激症状(尿が近い、尿が我慢できない、排尿時に痛みがある)などの症状が出る場合があります。またBCGを注入する場合、発熱、膀胱容量の低下などの症状がでることがあります。膀胱内注入療法により再発率をある程度下げることがわかっていますが、100%ではありません。
    また内視鏡下切除手術の直後(手術室をでる前に)、抗癌剤を1回だけ膀胱内に注入する「術後即時単回膀胱内注入」の有用性が数多く報告されています。直後に注入することにより、1回でも十分に高い効果が期待される場合があり、当科でも積極的に施行しています。

筋層浸潤性膀胱がんの治療

  1. 1)概略

    前述の内視鏡的切除で膀胱の壁に深く浸潤していると分かった膀胱がんでは、多くの場合膀胱をすべて摘出する必要があります。抗がん剤治療を術前(または術後)に併用して治癒率を高める場合もあります。

  2. 2)手術療法

    手術支援ロボット・ダビンチ(DaVinci)手術を基本に腹腔鏡手術、開腹手術を症例によって使い分けています。ロボット支援下膀胱全摘除術については「ロボット手術」の項目もご覧ください。

  3. 3)尿路変向術

    膀胱を摘出する手術が選ばれた場合、尿の出口を新しく作る必要があるため、様々に工夫された手術法(尿路変向術)(図5)が考えられています。どのようなかたちで尿を体外に出すかという問題は、患者さんの生活の質や快適度に大きく影響します。大きく以下の2つに分けられます。
    ・お腹に袋をはる必要のある手術
    ・自然に尿道から尿を出す手術

A.非禁制型

ストマ の部分(ストマ)に(パウチ)集尿袋をつけて24時間の尿を集める

尿管皮膚瘻尿管皮膚瘻
回腸導管回腸導管
 
 
B.禁制型
導尿型代用膀胱(インディアナパウチなど)導尿型代用膀胱
(インディアナパウチなど)

カテーテルを用いて導尿する
自然排尿型代用膀胱(回腸新膀胱など)自然排尿型代用膀胱
(回腸新膀胱など)

尿道から排尿する

当科では、全ての手術の経験を有し、患者さんの病状や全身状態を勘案の上、可能な限り本人のご希望に沿った手術方法を選んでいただいています。また、ストーマ外来という術後の排尿管理のための特殊外来も開いており、専門ナースが手術後の患者さんのアフターケアをしっかり行っています。

腎盂・尿管がんの治療

腎盂・尿管がんは膀胱がんとは異なり腫瘍ができる場所の壁(筋層)が薄いため膀胱がんよりも進行しやすいという性質があります。そのため転移がない場合にはまず患側(悪いほう)の腎臓と尿管を膀胱の近傍まで摘出する手術が必要となります。当科では積極的に腹腔鏡下手術によってこの手術を行い、少しでも患者さんの負担を減らすよう努めています。術後は膀胱がんと同様に膀胱内再発を起こしやすいため定期的な膀胱鏡検査が必要となります。

転移のある尿路上皮がん(膀胱がん、尿管がん、腎盂がん)の治療

尿路上皮がんは進行すると命にかかわる状態となります。個々の患者さんのご希望、全身状態、病状を勘案し、治療法を検討します。多くは抗がん剤による治療と最新の免疫療法が選ばれます。
抗がん剤による治療としてシスプラチンやカルボプラチンを中心とした多剤併用療法を行っています。抗がん剤治療が効きにくくなったケースでは免疫チェックポイント阻害剤という新しい薬剤による免疫療法を行います。
そのほか当科では進行尿路上皮がんに対する臨床試験を受け入れておりますので随時お問い合わせください。
(文責:助教 齊藤亮一)

「膀胱温存療法に対する医師主導治験について」

筋層浸潤性膀胱癌(MIBC)に対する医師主導治験につきまして

 京都大学泌尿器科では筋層浸潤性膀胱癌に対する新しい膀胱温存療法の医師主導治験を2023年10月より開始しました。筋層浸潤性膀胱癌に対する標準治療(現在の医療で最も良いとされている治療)は、根治的膀胱全摘術、尿路変向術とされていますが、病気の状況、身体的・精神的状況によっては、抗がん剤と放射線療法を組み合わせた膀胱温存療法も根治治療として選択肢の一つとなる場合があります。本治験は、膀胱を全摘する手術を望まない、またはできなかった患者さんのうち、そのがん組織が筋層まで、またはそれより深く広がっていることが確認された患者さんに対して、MK-3475とASG-22CEによる導入療法とMK-3475を併用した放射線療法を施行したときの、有効性と安全性を検討することを目的としています。

治験課題名:根治的膀胱全摘除術に不耐もしくは拒否の筋層浸潤性膀胱癌(MIBC)患者を対象としたMK-3475とASG-22CEによる導入療法とMK-3475併用放射線療法を施行した時の有効性を検討する非盲検非対照第Ⅱ相医師主導多機関共同治験

(治験実施計画書番号:IACT21079)(jRCT2051230071 )

 本治験の主な選択・除外基準は下記のとおりですが、正確な情報が必須であること、担当できる医師に制限があることから、当方の都合で大変申し訳ございませんが、主治医の先生からの事前のお問い合わせがございませんと、お受けすることができません。

そのため、下記の選択・除外基準に沿って適格性を満たしそうでしたら、
主治医の先生から診療情報提供-補助資料(PEVRAD医師主導治験用)に記載いただき、
PEVRAD医師主導治験窓口(pevrad_office@kuhp.kyoto-u.ac.jp)にメールにて、ご連絡をお願いいたします。そのうえで、来院いただく日時をご相談させていただきます。

 なお、本メールは、上記の理由から、主治医の先生からのお問い合わせのみに対応しておりますため、それ以外の方からのご相談やご連絡には対応しておりませんのでご了承ください。

対象となるがん

筋層浸潤性膀胱癌

cT2~4aN0M0(膀胱周囲までにとどまっており、リンパ節や遠隔転移がない状況)

治験のデザイン

第Ⅱ相試験

第Ⅱ相試験
主な治験の参加基準

主な参加基準は以下のとおりです。治験に参加いただくためには他にも基準があり、治験担当医師が検査・診察して、あなたが治験にご参加いただけるかどうかを総合的に判断します。

<主な選択基準>
  1. 画像検査(胸腹部CT)によりリンパ節や他の臓器にがんが転移していないと治験実施医療機関により評価された方
  2. 全身状態が良好な方
  3. 適切な臓器機能を有する方
<主な除外基準>
  1. 膀胱全体に広範な上皮内がんがある方
  2. 過去2年以内に膀胱以外の部位に尿路上皮癌が認められた方(上部尿路におけるTa/T1/CISの腫瘍で腎尿管全摘施行後の方は参加可能です)
  3. 腫瘍組織検体に小細胞又は神経内分泌成分が認められる方
  4. 過去3年以内に進行性又は積極的な治療が必要な他の悪性腫瘍を有する方
  5. 少量尿(30 mL 未満)の頻尿、尿失禁を伴い、膀胱機能が制限されている方、又は自己導尿法もしくは永久留置カテーテルを要する方
  6. 骨盤内に放射線療法を受けた既往がある方
  7. コントロール不良の糖尿病を有する方
  8. Grade2以上の感覚性又は運動性ニューロパチーが合併している方
  9. 活動性角膜炎又は角膜潰瘍の方
  10. 間質性肺疾患/肺臓炎を合併、もしくはステロイド投与が必要な間質性肺疾患/肺臓炎の既往を有する方

注:上記の選択基準・除外基準は概要であり、上記に該当していてもこの治験に参加できないことがありますので、ご了承ください。

京都大学医学部附属病院 泌尿器科
PEVRAD医師主導治験 治験責任医師 小林 恭
治験分担医師 北 悠希